「利用開始」までの時間を短縮する!
FAQ改善と“顧客理解”を深める工夫
毎年開催されるCSHACK主催の「カスタマーサクセス天下一武闘会」。昨年末に開催された2022年の優勝者が、SaaS業界向けの契約・請求管理サービス「Scalebase」を提供するアルプの西本諒氏だ。審査員から絶賛されたのは、同社の「顧客の自走力強化」と「顧客の解像度向上」に向けた施策だった。
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西本 諒 氏
──どのようなソリューションを扱っているのでしょうか。
西本 アルプは、継続課金ビジネス向けの契約・請求管理サービス「Scalebase」を提供しています。
多くの企業において、事業規模が小さいうちや課金体系がシンプルな場合は、営業管理ツールやExcelでの手作業管理で請求書管理がまかなえます。ところが、規模拡大に比例して課金体系が複雑化して管理が煩雑になり、膨大な手間が発生することがほとんどです。
Scalebaseで従量課金や日割といった複雑な料金計算を行い、会計ソフトウェア「freee」などの各種ツールに連携、請求書を発行することで、管理の簡素化や属人化の解消、プライシング戦略の変化に柔軟に対応できるようになります。
──組織体制を教えてください。
西本 顧客対応部門は図1のような流れで分業化しており、オンボーディング/サクセス部門は現在、7名が在籍しています。
図1 アルプ社内の部門体制と業務概要
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Scalebaseは利用開始までにデータ移行、連携作業など膨大な手間がかかる一方で、チャーン(離反)は少ないという特徴があります。このため、あえてチャーンレートではなく「導入までの日数」をKPI/KGIとしています。
FAQ利用率向上のカナメは
現場の意見即反映の仕組み
──オンボーディング支援の内容を具体的に伺えますか。
西本 従来は、全顧客に一様な超ハイタッチ支援を行っており、顧客の評価は高かった一方で、事業スケールに耐えられない事態となっていました。また、小規模顧客の中には、手厚いサポートより自走(セルフ)によって早期かつ容易に利用開始したいという需要もありました。そこでSMBの顧客向けにFAQやマニュアルを用意し、自走ルートの提供を開始しました。
まず、キックオフから利用開始までの期間を、各1週間目安で8フェーズに区切り、それぞれの説明資料を導入顧客に公開しました。ただし、重要なのは公開することではなく、「ブラッシュアップ」です。具体的には、メンバーがSlackのお客様からの問い合わせを確認するなかで、FAQに追加すべき重要事項と判断したものにスタンプを押します。すると、スプレッドシートに自動転記され、シートの内容を見てヘルプサイトとして利用しているNotion上に追記して一般公開するという流れです。自走率が大幅に向上し、オンボーディングの平均日数が大幅に削減されました。
顧客視点を伝えるメッセージ発信
部門間連携と協力を獲得
──(天下一武闘会の)決勝で発表された顧客課題の理解促進の取り組みも教えてください。
西本 「Scalebaseの運用開始後の顧客のサクセス状態が不透明」で、「何が最もプロダクト改善に必要かわかりにくい」という課題があり、かつメンバーごとに理解している「顧客の解像度」に差がありました。顧客の要望や課題を正確にプロダクト側に伝えなければいけない立場でありながら、解像度が低いまま“顧客の声”を闇雲に伝えた結果、何を本当に優先すべきかわからない混乱状態を作り出していたのです。
そこで行ったのがCSメンバー全員参加の半日間ワークショップで、「顧客のサクセス状態」の言語化・整理に着手しました(図2)。具体的には、過去の打ち合わせの議事録や蓄積されたVOCデータを振り返り、「CSが思うサクセスとはどのような状態か」「サクセスしていそうな顧客はどのような価値を感じているか」「サクセス状態の言語化」「サクセスに貢献できることは何か」について整理。そのうえで「どこから着手すべきか」を絞り込み、全員の意識疎通を実現しました。
図2 半日ワークショップで言語化・整理したテーマ
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ひとつの施策例として、他部署や経営層を対象に、顧客の利用イメージや業務課題を理解してもらえるような体験型クイズ「Scalebaseプロダクト検定」を社内ワークスペースで隔週配信。「契約登録をしてみよう」「契約改定取り消しについて」など、楽しんで顧客体験を実体験してもらう工夫を施しています。こうした取り組みの結果、プロダクトマネージャーからは「これはすぐに改善できそう」「もっと生の声を聞きたい。お客様とのミーティングに同席させてください」などの協力的な声が急増しています。今後も社内コミュニケーションを強化し、さらなるスケールに貢献したいと考えています。