<コーナー解説>
店舗など、コールセンター以外を含めた接客やサービスのプロにその心構えやノウハウを聞きます。
旅への思いは人それぞれ
“顧客の期待”を認識して応える
えびす屋浅草
所長
梶原 浩介 さん
Profile
2005年から、小樽、京都、函館、湯布院などで車夫として人力車を引く。2009年に配属された湯布院では、当初、路上での声かけに対し観光協会から指導が入り、会員として認められなかったが、商工会青年部に所属し町内清掃や地域行事に参加。1年間の地域貢献活動を認められ、協会にも会員として迎えられた。2013年から現職。同業他社が多い浅草で、浅草俥夫連絡会を発足し会長を務めている。
「人力車の梶棒が地面と平行になると、空飛ぶ絨毯のようにスーッと風を切って、お客様が心地よく乗れるんです」
車夫歴13年の梶原浩介さんは、人力車を引くテクニックをこう説明する。日々、乗り心地を追求し、よく通るルートは、マンホールや道路の継ぎ目など揺れてしまうポイントを頭の中に叩き込んでいる。揺れが避けられないときは、トークで紛らわせ不快感が残らないよう工夫する。
「目指すのは、顔を覚えてもらって、車夫との出会いが思い出のひとつになること」と話す梶原さん。自身にもまた、思い出深い顧客がいる。
一人前になって初めて乗せた老夫婦だ。杖をついているご主人は足が悪いためあまり移動できず、バス旅行ではいつも駐車場の近くから離れることができなかった。人力車に乗り、さまざまな景色を眺め、匂いを感じることができたことをとても喜び、降りる頃には夫婦ともに涙を流していた。
この経験から、旅への思いは人それぞれで、話を聞けば想像もしない答えがあることに気が付けた。
「なぜ旅をするのか」という問いには、人の数だけ答えがある。出会うすべての顧客に、この問いを投げかけ、その人が求める思い出を作るため、日々人力車を引き続けている。