「真実の瞬間」はひとつではない!
アフターコロナを勝ち抜く『CX』の考え方
リブ・コンサルティング
常務取締役
権田 和士 氏
アフターコロナの前哨戦はもう始まっている──さまざまな企業のコンサルティング経験を持つ権田和士氏は、そう強調する。コロナ禍を経て、顧客のロイヤルティを決定づけるとされる「モーメント・オブ・トゥルース(真実の瞬間)」は、「さりげないサービスの積み重ね」に移行したと説く氏に、アフターコロナのCX戦略を聞いた。
Profile
権田 和士 氏(Kazuhito Gonda)
リブ・コンサルティング 常務取締役
早稲田大学卒業後、大手経営コンサルティング会社に入社。さまざまな業界のマーケティングコンサルティング、経営戦略コンサルティングに従事。2008年より4年間、住宅不動産コンサルティング部門の本部長を務めたのち、米国ミシガン大学に留学し経営学修士(MBA)取得。2014年、リブ・コンサルティングに参画。現在、常務取締役として新規事業および人事部門を統括。
──コロナ禍で起きた企業と消費者の関係性の変化について、どう捉えていますか。
権田 もっとも大きな変化は、サービス業における「生産と消費の同時性」が薄まった、あるいはなくなったということです。コロナ以前は、サービスを提供する「場所」が大きな価値を生んでいました。その場所に行かないと体験できない、その場所にいる人と触れ合うことが最大の体験価値である、というもので、高級ホテルや旅館などにおける「おもてなし」がわかりやすい例といえます。
ところが、「リモート」と「アーカイブ」という2つの要素の拡大によって、提供価値のあり方がすっかり変わってしまいました。人がその場、その時間に何かを提供するという必要がなくなり、「人が介在するサービスこそ、CX(カスタマーエクスペリエンス)を高める」というこれまでの常識が通用しない時代に、企業も消費者も半ば強制的に巻き込まれたといえるのではないでしょうか。
──企業にとっては、顧客との関係性、CRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)を強化する方法が難しくなりそうです。
権田 場所も時間も問わないということは、「経験価値」をもたらすシーンが広義になるということです。かつては、いわゆる「モーメント・オブ・トゥルース──真実の瞬間」は、人が作っていると多くのビジネスマンが考えていたと思いますが、もはやその時代は終わったと考えるべきです。言い換えれば、CRMを強化できる瞬間、ポイントが飛躍的に増えたということですので、企業にとってはデメリットばかりではないと思います。
ロイヤルティを高める
「さりげないサービス」の蓄積
──しかし、サービスにおける有人対応の必要性が低下しているということは、高級ホテルや旅館、高級ブランドなどの価値は大きく低下しそうです。コールセンターも同様です。
権田 もちろん、「人のお節介」が必要なプロセスは残りますし、むしろ希少価値が高まるかもしれません。コロナ禍でも高級ブランドのルイ・ヴィトンの株価が上がっているのは、その証明のひとつと推察されます。それに、アフターコロナが到来すれば、音楽のライブや演劇、スポーツなどのリアル体験を提供するエンターテインメント産業など、当然、もとに戻る市場も多いと思います。そうしたわかりやすい、表層的な変化ではなく、(コロナ禍で)生産と消費の同時性がなくなったがゆえに体験価値が向上したサービスは確実に生き残り、ブランド力を強めると考えています。
(聞き手:矢島竜児)
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