新たなキャリアパスのすすめ
サポートからサクセスへの「転身」(前編)
急速に需要が増えているカスタマーサクセス。「顧客のビジネスを成功に導く伴走をする」ことが主な業務内容であることから、顧客の業務内容の深い理解や、ビジネスにまつわるコミュニケーションも求められる。しかし、日本には業務経験者が少なく、採用に難航する企業は非常に多い。市場の黎明期からサクセス業務に関わってきた筆者が、「サポート→サクセス」というキャリアの可能性について考察する。
KOMMONS 代表
白塚 勇士
SaaS業界を中心に注目度が急上昇しているのが、カスタマーサクセス職だ。現在は消費者(BtoC)向けの製品や電力サービス・ハードウエア製品などにもカスタマーサクセスの取り組みが広がり、人材市場における価値は年々、高まっている。
その結果、すでにカスタマーサクセスの取り組みをはじめている企業のうち6割以上が人材育成/採用に課題を感じており、深刻な人材不足問題に直面している(図1)。
サクセス職は歴史も浅く、経験者が少ないため、他業界からの人材の取り込みは避けられない。カスタマーサクセスの取り組みが先行する米国の調査データを見ると、カスタマーサクセス従事者のうち、20%がカスタマーサポート/サービス出身者となっている(図2)。日本国内では、営業職からのキャリアチェンジが一般的とされており、サポート出身者の比率は低い。言い換えれば、カスタマーサポート業界からカスタマーサクセス業界へのキャリアチェンジにはまだまだ伸び代がありそうだ。
サポートスキルを活かしやすい
3つのサクセス業務
カスタマーサクセスの業務は多岐にわたる。その中でも、カスタマーサポートでの経験を活かしやすい3つのカスタマーサクセス業務が、(1)導入支援(オンボーディング)、(2)テクニカルサポート、(3)CS企画だ。
(1)導入支援(オンボーディング)
製品が中小企業を主なターゲットとしている場合、客単価が低いため、カスタマーサクセス担当者は多くの顧客を同時並行で担当する必要がある。担当顧客数が多く、各社で個別に提案するのは難しいため、導入支援においては内容の「型化」が求められる。それでも、すべての支援を人手だけで行うことは難しい。フェイス・トゥ・フェイスの打ち合わせだけでなく、電話・メール・イベント(ウェビナー)など、さまざまなチャネルを駆使しながら顧客の成功にむけて伴走するには、テンプレートなどのナレッジ運用は欠かせない。テンプレートを作成したり、与えられたテンプレートをアレンジしながら対応するカスタマーサポート業務には親和性がある。
また、ITツールの利用経験がそれほど多くない顧客も多く、基本的なITに関する疑問も含めて対応しなければならない。対応の丁寧さと効率性のバランスをうまくとりながら、顧客の支援を進めていけるかが鍵になる。
(2)テクニカルサポート
SaaS企業では、カスタマーサクセス担当者が顧客への能動的な支援に集中できるように、オンボーディング後の問い合わせ対応はテクニカルサポート/カスタマーサポート担当者に受け渡すケースが多い。サポート担当者は「製品・サービスに関する専門家」として顧客からの問い合わせに対応するべく、製品・サービスに関する深い理解や、基本的なITに関する知識が求められる。また、顧客からの問い合わせが追加機能の購入につながる場合、営業やカスタマーサクセス担当に情報を共有し、企業の売り上げが向上する流れへつなげる。また、製品・サービスに関する回答を開発チームと共有し、改善の進捗を確認するなど、社内で各チームと密にコミュニケーションを取る。
(3)CS企画
CS企画は、製品・サービスを活用するまでの各ステップ、顧客に情報を届ける接点として最適なのは人か、セルフサービスのコンテンツかを見極め、最適な顧客接点を設計する業務だ。
具体的には、製品・サービスの利用状況や、アンケートの回答結果などのデータを分析・活用し、顧客ニーズに合う支援フローの最適化を日々行う。もちろん、「最適な顧客体験」は顧客の目的や状況によって異なるため、顧客に合わせた支援フローを考えていくことが必要だ。ただし、「より良い体験の提供」に執着し過ぎると、過剰サービスから収益性の悪化に繋がることもある。顧客体験の向上と並行してコスト削減も意識しなければならない。
以上、サポートで培ってきたスキルを活かしやすいサクセス業務を紹介した。とくに、(2)のテクニカルサポートは、従来コールセンターで提供してきた業務内容と同等のものだといえる。
次号の後編では、これら3つのカスタマーサクセス職種で応用できるサポートスキルの解説と、カスタマーサクセスへのキャリアを検討する上で意識しておきたいポイントをまとめる。
(2023年7月号 月刊「コールセンタージャパン」掲載)