カスタマーサクセス部門が増える理由とは──
成功の条件は「徹底した顧客視点」経営
「BtoBのスタートアップに多い部門」という印象が強いカスタマーサクセス。しかし、上島氏は「大企業でもカスタマーサクセス部門が増えている」と指摘する。カスタマーサクセスの組織化を成功するポイントをカスタマーサクセス/サポート/マーケティング領域でコンサルティングを手掛ける2人が議論する。
代表取締役
上島 千鶴 氏
代表取締役
藤島 誓也 氏
上島 今年、2023年6月にNexalにて大規模な組織調査を実施しました。その結果、「カスタマーサクセス組織と、カスタマーサポートの組織設置率」を上場企業だけで見ると、カスタマーサポート組織設置率2.1%に対し、カスタマーサクセス組織の設置率は2.9%という逆転現象が起きていました。カスタマーサポート組織を持つ企業の業種は、保全や修理が必要になることが多い製造・機械業が52.5%を占め、次に保守サービスを伴う情報通信・IT業が25%でした。一方で、カスタマーサクセス組織を持つ企業では、情報通信・IT業が62.8%を占め、サービス業11.5%、製造・機械業9.7%と続きます。一部のSaaS業界から始まった概念はさまざまな業種に広がっています。
藤島 市場の変化を受けての動きでしょうね。日本を含む先進諸国の大半が少子化社会で、あらゆる市場が飽和状態です。新商品開発はいつの時代も必要ですが、それだけでは売り上げは伸びません。カスタマーサクセス部門が専門家として顧客にアドバイスをし、“使いこなせる”まで伴走することで、既存顧客の離脱を防ぐ。この役割を重視せざる得ない市場環境といえます。
上島 企業に対する評価と価値基準の変化も影響しています。最近は、SDGsやESGを含めた新しい株価指標が使われ、商材(プロダクトやサービス)の価値だけで企業を評価する時代は終わりつつあります。製品の機能的価値だけでは差別化を図れない以上、顧客体験も含めた新しい付加価値や自社の提供価値の言語化は欠かせません。
カスタマーサクセスは、顧客が望みながらも競合が手付かずで弱く、自社しか提供できない特有の価値(UVP:ユニークバリュープロポジション)を見出すことが本来のミッションです。「ヒト・モノ・カネ」が企業の経営資源とされてきた時代から、「知的財産やナレッジ、データを含む情報資産」へと変わりつつあります。
藤島 消費者も“世代交代”しています。シニア層は「人(専門家)の案内を受けたい」と考える人が多いのですが、ミレニアル世代は「自分が主体的に調べ、自分で決めたい」という考えが強く、従来の無差別的な“おすすめ型営業”を不快なものと感じる傾向があります。「タイパ」という言葉が表しているように、コミュニケーションよりも自己解決で“無駄な時間を削減したい”という感覚が一般的で、たとえ人に聞くとしてもそのタイミングを重視します。カスタマーサクセス業務とは、データに基づいて顧客が必要なタイミングを鑑みてアプローチすること。従来の営業とは異なる顧客視点でのフォローが必要で、世代交代後の需要にもフィットしそうです。
グロースのカナメとなる
自動化の末に残る“コンサル力”
藤島 ChatGPTの登場以降、あらゆる業界で自動化が加速していますが、その先に残るのは、「相手の望む価値を実現するコンサルテーション力」です。入ってきた問い合わせに回答するだけならば生成AIで十分。いずれ、サポート部門も変化のときが来ると思いますが、そこにおいてカスタマーサクセスの考え方やアプローチは役立つはずです。
例えば、ヘルプサイトも“サクセステイスト”な要素を多分に取り入れられる余地があります。単に問い合わせを削減するツールと捉えるだけではなく、「どうすればより良く使いこなしてもらえるのか」「顧客が自社製品を使う先に求めているものは何か」まで立ち返ってコンテンツをつくることで、能動的に“見たい”と思ってもらえるものになるのではないでしょうか。
上島 最近ではカスタマーサポートでも、単純な解約率や継続率、アップセルという“企業視点”の指標を脱却し、本当の顧客起点で“サクセス”に変えることで継続性を高める動きが出ています。例えば、スカパー・カスタマーリレーションズでは、解約阻止率を最優先とした“引き止め施策”を止め、“退会しやすく入りやすい仕組み”を目指した改善を進めました。退会時のカスタマーエクスペリエンス(顧客体験)を向上することで再入会率を高める狙いです。
サクセスの組織化で欠かせない
言語化、データ化、部門間連携
藤島 カスタマーサクセスを組織化、専任部署を設けるところまでいかなくてもカスタマーサクセスの取り組みを実践する企業が増えていますが、案外、忘れがちなのが、「自社にとってのカスタマーサクセス」「自社の顧客に対してできることは何か」を言語化することです。「顧客」「新規顧客」「既存顧客」をしっかり定義して、社内でコンセンサスを取っておくことが重要。これができてないために、社内のコミュニケーションに齟齬が生じるケースは多くあります。
上島 「顧客理解」と言っても、データの裏付けがなければ標語にしかなりません。顧客の状況をデータでタイムリーに把握でき、インテントデータから示唆を読み説くデータインサイトがポイント。さらにそれを共有するための部門間交流も重要です。組織を作るのは、ゴールではなく実行する手段。データをもとにCX全体を考え、成長戦略を描いたうえで、サクセスを含めた顧客接点の役割を定義しておくべきでしょう。
(2023年10月号 月刊「コールセンタージャパン」掲載)