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2023年11月号 <インタビュー>

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桐生 正幸 氏

「宣言」だけではカスハラ対策にはならない
“被害を未然に防ぐ対話法”を提唱

東洋大学
社会学部 社会心理学科 教授
桐生 正幸 氏

「顧客の誰もが、カスタマーハラスメント加害者になる可能性がある」。犯罪心理学者で東洋大学社会学部社会心理学科教授の桐生正幸氏は、こう指摘する。対応方針を打ち出す企業に対し、「それだけでは不十分」と唱える桐生教授に、顧客も対応者も「落ち着かせる」コミュニケーションの現場への浸透方法について聞いた。

Profile

桐生 正幸 氏(Masayuki Kiriu)

東洋大学 社会学部 社会心理学科 教授

専門は犯罪心理学、社会心理学。日本カスタマーハラスメント対応協会理事。日本犯罪学会常任理事。山形県警の科学捜査研究所(科捜研)で主任研究官として犯罪者プロファイリングに携わる。その後、関西国際大学教授、同大防犯・防災研究所長を経て、現職。神戸学院大学、聖心女子大学などの非常勤講師も務める。

──9月に厚生労働省が「心理的負荷による精神障害の認定基準」を改正し、国が本格的にカスタマーハラスメント対策に乗り出しました。

桐生 労災認定にまで踏み込んだことで、今までカスハラを黙認して現場に無理を強いてきた企業も対策を講じざるを得ない状況になりつつあります。ただし、公的なカスハラの基準までは示されておらず、自社で定義しなければならないため、大半の企業が“様子見”の状況です。犯罪に属する悪質なクレームもある一方で、多くのカスハラは顧客と接客対応者(コールセンターの場合はオペレータ)のコミュニケーションの行き違いから生まれています。つまり、加害者は、「普通の顧客」であることがほとんどです。先んじてカスハラを定義することで、顧客が競合他社へ流出してしまう可能性を懸念している傾向がみえます。

──商品やブランドへの愛着度を問わず、どんな顧客も加害者になり得るという意識が必要なのでしょうか。

桐生 承認欲求や孤独感が強いなど、一定の傾向はありますが、誰であってもカスハラ加害者になる可能性はゼロではありません。実際、2020年に実施した「カスハラに関するインターネット調査」では、回答者である男女2060人のうち、45%が「悪質なクレーム(カスハラ)を起こしたことがある」と答えています。

過度なサービス競争の功罪
カスハラは「軽視」の兆候

──普通の顧客がカスハラにおよんでしまう傾向はありますか。

桐生 端的に言えば、相手の企業や店舗を軽んじている場合に起こりやすい。心理的な観点では、接客対応者や企業の状況を判断しながら、商品やシステムの不備、あるいは応対の不備に対して、「謝罪してほしい」「認めてほしい」「言うことを聞いてほしい」などの欲求の充足を求め、それが満たされる「利益」と、その要求行動による「リスク」を天秤にかけます。カスハラを行う顧客はリスクを低く見積もった「合理的な選択」をしたつもりでいます。しかし、結果的にその行動が、重篤なカスハラとなっているわけです。また、企業が市場競争において、過度なサービスを提供して顧客を甘やかしてきた結果でもあるとも言えます。これはカスハラだけではなく、犯罪全体的の傾向でもあるのですが、2020年以降、加害者の動機や手段が幼稚化している傾向にあります。「これをやったら、相手はどう思うのか」または「どうなるのか」といった想像力が欠如しているケースが散見されます。

──リスクを理解してもらう意味では、一部の会社が実施している「宣言」は有効ですね。

桐生 まずは「この企業に文句を言えば優位に立てる」と思わせないことが重要ですから、一定の抑制効果があると思います。ただし、「従業員を守る」という本質的な目的を達成するには、不十分と言わざるを得ません。「方針を宣言し、(カスハラ案件を)公表したら対策完了」ではなく、「調査→実態把握→効果測定→対策の見直し」のサイクルを回し続けることと、“被害者”を出さない、つまりカスハラを未然に防ぐ具体的な取り組みが不可欠です。とくに後者に関しては、認識すらしていない企業が多いと感じています。

(聞き手・横田 麻生子)
続きは本誌をご覧ください

 

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