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2021年5月号 <市界良好>

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市界良好

<著者プロフィール>
あきやま・としお
CXMコンサルティング
代表取締役社長
顧客中心主義経営の実践を支援するコンサルティング会社の代表。コンタクトセンターの領域でも、戦略、組織、IT、業務、教育など幅広い範囲でコンサルティングサービス及びソリューションを提供している。
www.cxm.co.jp

言葉の選択

秋山紀郎

 最近、飲食店に電話でテイクアウトをオーダーする機会が増えている。電話応対に慣れないアルバイトが対応することも多い。先日、あるイタリアン・レストランへの電話で、こちらの発声がはっきりと届かなかったとき、「はい? 何ですか?」と返された。「電話が遠い」などの慣用句はもはや存在しないのだろう。それでも復唱などのやり取りが少ないから、通話時間は短い。

 先日、ある通信販売サイトの商品について問い合わせる必要があったため、コールセンターに電話した。オペレータの第一声は、「〇〇(コールセンターの名称)でございます。〇〇(オペレータの名前)が責任を持って対応いたします」という心強い挨拶で始まった。早速、Webサイト上に掲載されている商品の機能性に関連して、どれが自分に合うものかを尋ねたのだが、商品カテゴリー専門の部署を案内された。とくに個人情報を尋ねられていないから、別の窓口に電話をして、再度こちらから状況説明する必要がある。それはおっくうに感じたから、この電話を転送できないのか尋ねてみたが、やはり断られた。「責任を持って対応する」とは、かなりかけ離れており、残念な対応だ。役割分担があるから他部署が担当するのは仕方ないと思うが、その場で状況説明を代行し、問題解決まで見届けるのが責任ある対応だろう。おそらく、1本でも多く電話を取ることがセンターの使命であり、一次解決率をKPIにしていないか、別番号を案内すれば問題解決と定義しているのだろう。センター管理者のポリシーだと思うが、毎回、「責任を持って対応する」と挨拶しているオペレータは、発言と行動の矛盾を感じないのだろうか。

 同様に、「申し訳ございません」を多用するコールセンターがある。保留あけに、「大変、お待たせして申し訳ございません」とか、ちょっとしたお願いを断るときも、「申し訳ございません」となる。ほぼ無条件に謝っていると感じる。恐らく、謝罪の意味を自分で考えなくなってしまっているのだろう。相手との衝突を恐れて、謝罪が多用されるのだと思う。謝罪がない方がスムーズなやり取りになるときもある。

 今、パソコンの調子が悪く、コールセンターのお世話になっている。ときどき発生する症状に悩まされており、なかなか厄介な事象なのだが、オペレータからは「〇〇が発生するということで、間違いないでしょうか」と確認を問われた。「間違いないか」と言われると、全部の事象を正確に伝えたとは言い切れないから、こちらは少し怯む。発生事象の確認であれば、「〇〇が発生するのですね」で十分だと思う。インストールや設定などいろいろ手伝っていただく過程で、とても親身になって対応にあたってくれていると感じるのだが、自分の理解を尋ねると、「おっしゃる通りでございます」と言われるので、突然距離を感じてしまう。「その通りです」で十分だ。

 オペレータは、正しい表現を教わっていると思う。それが逆に、血が通っていないように伝わるのはとても残念だ。応対のプロフェッショナルとして、保守的な表現で凝り固まるのではなく、その場面に応じた正しい日本語を使うようにしてほしい。


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