<著者プロフィール>
あきやま・としお
CXMコンサルティング
代表取締役社長
顧客中心主義経営の実践を支援するコンサルティング会社の代表。コンタクトセンターの領域でも、戦略、組織、IT、業務、教育など幅広い範囲でコンサルティングサービス及びソリューションを提供している。
www.cxm.co.jp
客観性
秋山紀郎
大企業における不祥事のニュースが後を絶たない。不正会計や品質偽装などの意図的なものから、情報流出のようなミスまで内容はさまざまである。不祥事の実態を明らかにするため、独立した組織による調査が求められることも多く、第三者委員会の設置がよく聞かれるようになった。中立的で透明性のある調査と評価を受け、その提言に基づく対策を講じることで、信頼回復を図ることが目的である。
私自身は、このような第三者委員会のメンバーになったことはないが、プロジェクトが行き詰ったときや立て直しにあたって、客観的なレポートを求められることは幾度かあった。調査では、これまでの資料によって事実関係の把握に努めるのだが、このような状況下では資料が残っていないか、読んでも分からないとか、曖昧な記載も目立つ。関係者にヒアリングすると、他責の発言が多く聞かれ、「こうなるのは分かっていた」と言う人もいる。調査を重ねると、プロジェクトの遅延や、予算オーバーになった直接的な原因は分かるのだが、その背景にあるものまで突き止めなければ再発防止にならない。例えば、過少見積もりが直接の原因の場合、なぜ見積もりが小さくなったのか、技術不足なのか、そうであれば見積もり計算を検証するプロセスはなぜ機能しなかったのかなど追求は続く。これらをコミュニケーション不足と言えば簡単だが、企業文化に依るものという根深いものも見えてくる。利害関係が生じない立場から率直に報告することはとても重要となる。
問題が生じたときの調査に限らず、何か判断するための現状調査という仕事は意外と多い。業務上のリスク評価、BCP実効性評価、セキュリティ診断、業務の課題抽出など、コンタクトセンターに特化したものでも、アウトソーシング可否診断、モニタリング評価など多岐にわたる。このとき、重要なことは、利害関係のある先に調査を求めているかどうかである。最近、よく聞かれる注意すべき事例が、RPA対象範囲とチャットボット対象範囲の2つの調査だ。
どの業務をRPAで自動化できるのか。RPAの特徴が分からない場合、その対象範囲を見極めるには難があるだろう。一方、RPA製品をよく知っているからと、この調査をRPA製品取り扱い企業に依頼するケースが多い。この状況では中立的な調査報告を期待してはならない。RPA対象範囲が広くとられ、かえってメンテナンス工数が増えてしまい、困っているという事例も聞かれる。
チャットボットでも同様のことが起きる。コンタクトセンターの応対履歴を提示して、ボットの可能範囲を調査依頼するケースがある。コンタクトリーズン分析には専門的な手法が必要であり、応対履歴だけでボットの可能範囲は判断できない。それを理解せず、チャットボットを提供している会社に調査依頼した結果、歪んだ報告がなされてしまうケースがある。コール業務を減らしたいユーザー企業と、チャットボット導入を実現したい企業との間で、ボット導入に傾いた内容になってしまう。客観性に欠いた報告をもとに、使われないチャットボットが導入され、ユーザーを落胆させているとすると、これもある種の不祥事である。