“崖”を乗り切るクラウドとAIの活用
若きリーダーが説く「DX」の現在地
日本IBMデジタルサービス
代表取締役社長
日本IBM 執行役員
井上 裕美 氏
2020年7月、コロナ禍に船出した、日本IBMデジタルサービス。従来、業種特化に近かったグループ3社を統合、開発から運用・保守まで一気通貫で「DX(デジタルトランスフォーメーション)」を加速させるITプロフェッショナル集団として誕生した。同社を率いる若きリーダー、井上裕美氏にDXの現状と将来像を聞いた。
Profile
井上 裕美 氏(Hiromi Inoue)
日本IBMデジタルサービス 代表取締役社長
日本IBM 執行役員
慶應義塾大学理工学部卒。2003年、日本IBM入社。システムエンジニアとして官公庁のシステム開発を担当後、官公庁基幹システムプロジェクトのPM、部長、統括PM/POなどを歴任。2020年新会社設立に伴い、日本IBMデジタルサービス代表取締役社長。
──コロナ禍によって、日本のDXは急速に進んだとされています。新会社もDXの推進をビジネスのコアとされていると思いますが、どう捉えていますか。
井上 DXの定義や進捗の捉え方は、業界や会社によって異なります。それでも、いくつかのフェーズに分けることは可能です。それが、「デジタイゼーション」「デジタライゼーション」、そして「DX:デジタルトランスフォーメーション」です。
──具体的にご説明ください。
井上 デジタイゼーションとは、単純に「アナログのものをデジタルにする」ことです。例えば、社内承認に書類への押印が欠かせなかった多くの企業は、コロナ禍、それをオンライン上で処理せざるを得ない状況となりました。これだけなら、紙がPCの画面に変化しただけで、関わる人間の作業やプロセスは印鑑を押していたコロナ以前と同じです。蓄積したデータを活用し、そのプロセスのあり方を変化させる段階がデジタライゼーションです。例えば、書類を作るまでは人間が行うけど、チェックは目視ではなくAIが担う。コールセンターなどの顧客接点においては、チャットボットが典型的な事例です。顧客の疑問に対して、自動で回答を生成、回答するような仕組みによって、ビジネスプロセスは大きく変わります。コロナ禍で進んだとされているDXは、現段階ではこのステップの業種や会社が多いと思います。
それに対して、DXとは、企業内、あるいは部門内で実施されたデジタライゼーションの仕組みやデータを全社、あるいは企業や業界を超えて活用することで、新しい価値を生み出すことだと捉えています。デジタイゼーションやデジタライゼーションを積み重ねることで、もっと大きな変化が生じてDXとなるとすれば、現在はその過程にあると思います。
メインフレームからAIまで
“IT人材”を抱えるメリットを活かす
──日本は、デジタイゼーションの段階で止まっている企業が多いように感じます。
井上 欧米諸国と比較すると、日本の商習慣は「紙」が重要視される傾向が強く、それだけにアナログから脱却できなかった企業が多いのは事実です。コロナ禍で強制的に在宅やリモート環境で仕事せざる得なくなったことで、脱・アナログが加速したことも間違いないのですが、一足飛びに全社、あるいはグループ、業界でデータや仕組みを共有・利用するところまではいかないものです。それには、まずIT人材を超えたデジタル人材を育てるところからスタートしなければいけませんが、当然ながらある程度の時間を要します。
コロナ以前の2018年、経済産業省は「DXレポート」で「2025年の崖」に言及しました。事業部門ごとに構築されて個別運用されてきたシステムの老朽化、サポートの終了、そしてIT人材の枯渇が、日本企業の国際競争力に致命的なダメージとなることを危惧したものです。業種問わず、「変わらないと生き残れない」状況であることは間違いないのですが、コロナ禍によって、変化の必要性に対する認識が高まり、“壁”に対処するスピードは早まったと捉えています。
(聞き手・嶋崎有希子)
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