<著者プロフィール>
職業:顧客経験価値にこだわる戦略立案&業務改革コンサルタント
過去勤めたことのある企業:日本ユニシス、日本IBM、日本テレネット
週末の過ごし方:
<ケース1>隅田川あたりをぶらぶら散歩して浅草で飲んだくれたあと銭湯で汗を流す
<ケース2>スポーツジムでヨガレッスンを受けて汗を流す
最近の悩み:昔は痩せの大食いだったのが、最近は小食の小太りになっていること
デジタルシフトは
必ずしもエフォートレス化にあらず
ISラボ 代表 渡部弘毅
コロナ禍を機に、ジムのヨガレッスンがLINE経由の完全予約制になり、便利さを実感している、わたちゃんです。でも、ヨガ友の91歳のシニアレディは予約画面にはたどり着けるのですが、そこから先で行き詰まることが多く、僕が代わりに予約ワークをしています。
とくにコロナ禍、顧客接点のさまざまな局面でデジタルシフトが進んでいます。一般的には、顧客はエフォートレス体験や利便性、企業は効率化や省力化を享受でき、Win-Winが実現できる手段と言われています。しかしせっかくデジタル化をしたとしても、必ずしもすべての場面でベネフィットを提供できているとは限らないのです。
例えば、近所のスーパーマーケットに数年前にセルフレジが導入され、当初はかなりの頻度で利用していましたが、自分にはエフォートレスな体験ではないと感じています。バーコードのスキャンはスムーズにいかないことが多いので手間取り、一部のバーコードのない商品は画面で該当製品を探すのが大変です。駐車場カードが欲しい場合は、スタッフに声をかけなければいけません。有人レジも最近は支払い部分のみをセルフに移行し、非接触&効率化が進んでいます。従って、あまり混んでいない場合は、有人レジに並んだ方がエフォートレスなのです。こうした体験を重ねていると、「もしかして、セルフレジは単に顧客に作業をさせて人件費削減を狙った企業にだけ都合のよいシステム化だったのでは?」と懐疑的になります。
また、別の小売り店では、キャッシュレス決済手段としてSuicaカードを提示したところ、レジスタッフはSuica決済用端末に購買金額を手動で入力していました。そしてレジ印刷のレシートとSuica決済用の印刷レシートを重ねて渡すという、極めて非効率な作業となっていて、スタッフがかわいそうになりました。
昨今はタクシーでのキャッシュレス決済も日常になりましたが、その処理は運転手にも乗車客にも煩雑で、領収書をお願いしようものなら現金支払いの倍ほどの時間を要します。このように、デジタルシフトしたものの、顧客や現場スタッフにはエフォートレス化どころか、逆に負荷が増すケースもみられます。
このような状況はコンタクトセンターも同様です。チャットボットを導入し、正答率の向上や有人チャット、電話対応への導線設計に取り組んだものの、顧客にとっては、「最初から電話した方がよっぽど早く欲しい情報にたどりつけた」といった事例も少なくありません。非接触やDXという文脈のもと、加速度的に顧客接点のデジタルシフトが進んでいますが、顧客や現場スタッフ視点での十分な検討は欠かせません。
ということで、ジムの予約システムのシニア対応を考えると、今の予約システムに加えて、ボイスボットを導入し、対話形式で予約ができるシステムにすべき、との考えに至りました。でも、そうなっても、あのシニアレディの喜ぶ顔を見たいので、きっと相変わらず予約をしてあげるんだろうな。
図 顧客接点デジタルシフトの三方良し