<著者プロフィール>
あきやま・としお
CXMコンサルティング
代表取締役社長
顧客中心主義経営の実践を支援するコンサルティング会社の代表。コンタクトセンターの領域でも、戦略、組織、IT、業務、教育など幅広い範囲でコンサルティングサービス及びソリューションを提供している。
www.cxm.co.jp
他責思考
秋山紀郎
他責思考とは、問題が生じるなど物事が上手くいかなくなったときに、その原因を自分以外のもののせいにしてしまうことである。その反対が自責思考だ。こちらの方は、上手くいかなかった原因を自己分析して対策を考えるため、自己成長へとつながる。プライベートであれば自責思考ができても、組織の一員となると難しいのかも知れない。
謝罪記者会見などで感じるのは、組織のトップになるほど、守るべきものも増えるため、他責思考に陥りやすいことだ。問題なのは、他責思考になっていることに気が付いていないことや、他責思考が習慣になってしまっている人々である。自分を守りたい、自分は悪くない、責任を取りたくないという気持ちから、逆に相手を責めてしまうことも起きる。他責思考は、自分が弱かったり、大きな組織に守られていても生じやすいようだ。自分の非を認めれば、物事がスムーズに進むのだが、相手ばかりを責めていると、相手も保守的にならざるを得ず、ギクシャクしてしまう。お互いに至らぬ点を認め合えば、すんなり前に進むのだが、これができない人もいる。他責思考の結果、自分が損をしていることに気が付いていない。
私が新入社員だった頃の古いエピソードを今でも覚えている。自分が任されて、参加者全員の日程調整と連絡をした飲み会の当日に、肝心な部長が来なかった。部長不在の飲み会では、冗談半分だと思うが、先輩方に責められた。「自分は悪くない。日時をきちんと伝えたのに、なぜ自分が責められるのか」と納得できなかった。翌朝、部長席に行くと、「昨日は悪かった。日付を間違えていたよ」と意外に軽い感じで、私を責めなかった。そのとき、ふと気が付いた。予定を再確認するとか、一緒に飲み会の場所に行くとか、自分にできたことがいくつもあって、部長の欠席を予防できたと感じた。どこにでも起きていそうな出来事だが、ビジネス上のトラブルで、どちらか一方だけが悪いということはなく、どちらにもトラブル回避のチャンスも責任もあるということを自分なりに見出したきっかけになった。
先日、会員登録エラーを回避するため、大企業のコンタクトセンターに電話をした。ある状況下でエラーになることは分かったのだが、それが解消されるのが1〜2週間後という回答だった。日にちの幅があまりに広く、毎日、エラーが修正されたか確認するしかないのかと尋ねると、「たいへん申し訳ないのですが、私どもも1〜2週間、そういう情報があります。そう、お願いをすることになります」という回答だった。表現は巧みなようだが、他部署やシステムのせいにした他責思考である。自社のサービスのことなのに、「そういう情報がある」と言われてしまうと、他人事にすら感じた。お客様に何をすべきか、自責思考を避けていると、組織も顧客対応も良くならない。
誰であっても、自責思考を実践するのは、とても勇気がいる行為だと思う。なぜなら、その問題について、自己分析して対策を講じることを約束するからである。でも、組織長であれば、相応の権限があるのだから、できることも多いはずだ。また、1人の担当者であっても、それぞれの範囲で何らかの対策はできるはずだ。