平屋建ての社屋はもとパチンコ店
試験開発用の醸造設備も備えている
ずらりと並んだ製品
ヤッホーブルーイング
ストレスフリーな環境が育む
ファン作り最優先の企業文化と風土
「よなよなエール」などのクラフトビールを製造するヤッホーブルーイング(以下、ヤッホー)。クラフトビール市場のトップブランドであるとともに、働きがいのある会社としても知られる。移住先として人気の長野県御代田町に同社は拠点を構え、全国から集まった社員たちは、「土地柄の良さが働きやすさにつながる」と話す。
ヤッホーはECを中心に売り上げを伸ばし、19期連続で増収を続ける。受注や出荷指示、それに伴う問い合わせ対応をするのが6年前に発足した「おもいやり隊」。名称は、「おもてなしをいつでもどこでもやりたい」を縮めたもので、同社の顧客志向を体現した組織だ。
おもいやり隊の業務はほかにも、採用やPR活動への問い合わせ対応、SNS上でのアクティブサポートによるファンとのきずな作りなど幅広い。「ファンを大事にする」企業理念の実現が同部門の役割となり、社内からの注目もひとしおだ。
経営からの期待は高く、6人のメンバーが任される裁量も大きい。例えば、顧客との対話の中で「製品を贈りたい」と思えば、稟議などを通さずに送付できる。上限金額の設定もなし。他社で長く経験を積み、2021年にヤッホーへ転職した佐藤友子氏は、「他社なら上長の判断を仰ぐところを、ヤッホーでは基本的に自分たちの判断で実行できます。正直なところ、以前は“これはできないだろう”と思いながら仕事をすることも多かったです。仮に実現できても、承認を取るまでが長く、やりたい気持ちが半減してしまう。しかし今は、お客様のために考えたことを自分の裁量で、すぐに行動に移せることが、モチベーションの維持にもつながっています」と笑顔を見せる。
顧客から送られた品々を前にした、おもいやり隊のメンバー
社内は間仕切りがなく広々
共用のミニキッチンはお茶を入れたり、お弁当を温めるあいだにスタッフが談笑する憩いの場にもなっている
社長のニックネームは「てんちょ」
ファンを増やすには、まずは社員とのきずなが必要と、社員の趣味や楽しみを応援する。趣味を満喫するため、1週間ほど休みを取る社員も多い。
社員の個性を尊重する風土は、ニックネーム制にも表れている。同社の井手直行社長は「てんちょ」といった具合に、自分でつけたニックネームを皆が呼び合うことで、役職や年齢の違いによる心理的なハードルがグっと下がり、雑談や相談のしやすい職場環境が生まれている。
毎朝20分ほどの「雑談朝礼」もユニーク。部署や立場に関係なく、輪になって順番に「仕事と関係の無い話」をする。気持ちがリセットされている朝に、気軽なコミュニケーションをとることで、業務上でも意見を言いやすい環境を作るための試みなのだという。おもいやり隊は他部門と関わる仕事も多く、率先して参加する。朝礼を通して見知った顔が増えるほど、社内でのやり取りも円滑になる。
各自の強みや特性を示す「Donata」カードも、交流という面から仕事の質を上げている。誰もがこのカードを首から下げているため、相手の特性が“見える”。意見が食い違った場合はアプローチ方法を変えるなど、対話を続けることができると評判も上々。
ヤッホーが求める人材像は「知的な変わり者」。個性豊かな社員たちが徹底的にコミュニケーションし合うことで、ファンに楽しんでもらえる新たなアイデアを生んでいる。
玄関では、全社員の顔写真とニックネームの入ったカードが訪れた人を出迎える(写真は一部)
「Donata」カードは、各自の特性が分かり、仕事もしやすいと評判